外泊 石垣の里に流れるあたたかさ

街道の行きつく先には、城壁で全体を守られているような集落があった。

その光景は、些か驚くべきもの。強固で堅牢な石積みの壁が、見上げるほどの高さで連なっている。

その石積みの壁の合間に、集落の家々は点在する。その数約50軒ほど。

見事な段々畑に囲まれた集落には国内外で数多く出会ったが、これほどまでに頑丈で、これほどまでに荘厳な石垣に守られた集落が、かつてあっただろうか。

それはまさに城そのもの。集落全体が難攻不落の城のようなのだ。外部からの人間を一切受け付けない「山城」のような様相。それでいながら、なぜか優しく温かい。

そう、その地で何に驚かされ、また、それが故に戸惑うかといえば、一見突き放すような、無機質の石が累々と、高々と、積み重なっているその場所は、見た目に反して、足を踏み入れるとなぜかとても温かいのだ。

もちろん、温度としての意味ではない。雰囲気。風。空気感。
そこに佇んでいるだけで、なぜだかほっとするのである。それは、離島やへき地で時折体験する、あの不思議な温かさによく似ている。

愛媛県の南部、愛南町外泊。宇和海に突き出る半島の北西部にその集落はある。

JRの駅がある、一番近くの町・宇和島から車で約2時間。海沿いの道を走り続けて、ようやくその地に達することができる。

江戸時代の後期、人口が増加した隣の中泊地区で「分家移住」が提案された。家督を継がない次男、三男を対象に人員を募集、谷を埋めて水路とし、屋敷の造成が行なわれ、全戸が入居を完了したのは明治12年頃だったといわれる。

その当時の様子は想像するしかないが、集落はいつしか、外洋からの強い風と塩害から家屋を守るために築き上げられた「石垣」に守られた集落となった。その途方もない数の石を、人の手で一つ一つ積み上げたのかと思えば、その労力と、それに要したであろう気の遠くなるような時間に、ただただ頭が下がる。

その想いはどこからやってきたのか。家族を、家を守るため、その一心なのか。それとも、「ただ、石を積み重ねる」、その作業を淡々と繰り返しただけなのか。

時折吹き抜ける、潮の香りをたっぷりと含んだ冷たい風をものともせず、一人の小学生がとことこと石の階段を下りて行った。驚きと戸惑いと感心と感嘆の入り混じるこちらには目もくれず、それこそ「どこ吹く風」とでも言うように、彼は軽やかに階段を下りて行った。

「石垣の里」愛媛県愛南町外泊。日本にはまだまだ美しい場所が沢山ある。

集落では現在も人々が日々の生活を営んでいます。訪れる際には、そこに暮らしていらっしゃる方々の邪魔にならないよう、十分配慮を。

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